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未来科学の平行世界 第4章 大中華合衆国への道 その④

 戦車隊のリーダらしき人物が、砲台上部のキューポラ(軍長展望塔)から上半身をのぞかせて、拡声器で呼びかけてきた。

「国家に反逆する者たちに告ぐ。我が戦車部隊による攻囲は完全に確立された。もはや抵抗は無意味である。すぐに集合状態を解除し、即刻散会することを要求する。叛意を捨て去り、我らが指揮の下に帰順せよ!」

 広場、そして人々が集合し詰めかけている街路、その周囲に屹立する雑居ビルの林。そこには多くの人がいるにもかかわらず、一切の音が消えた静寂に包まれた。
 それほど強くない風の音のみが、やけに耳をついて吹き抜けてゆく。

「どうした! 聞こえんのか! すぐに散会を開始することを命ずる。さもなくば、力づくでも強行しなければならなくなる。よし、あと1分待とう。1分以内に動きが見えなければ、即、実力行使を開始する。さあ、さっさと・・・」

 その声が、その先を告げることはなかった。
 突然の轟音が、ビルの谷間の反響し、その場にいた人々の鼓膜を揺るがした。
 その衝撃は、その場に集った人々の度肝を抜き、いったい何が起きたかまったくわからないまま、人々の心を恐怖に震えあがらせた。

 人々を力で威圧していた戦車が一台、炎に包まれ黒煙をあげていた。
 それは、今の今まで拡声器で大衆を制圧せんとしていた戦車隊の隊長が乗っていた車両だった。その砲台は、跡形も無く崩れ去り、そこにいたはずの司令官の姿は、どこへ吹き飛んでしまったか分からないほどの惨状であった。
 彼の戦車は、完全に沈黙していた。
 一体何が起きたのか?
 それは、彼の背後に位置する戦車から、最短の至近距離で戦車砲の直撃を食らったからであった。
自分の上官である戦車隊司令官を打ち抜いたその戦車から、一人の男が顔を出す。おそらくは、砲撃により消滅した司令官の直属の副官クラスであろうと推定された。その人物は、用意していた拡声器で思いのたけを叫び始めた。

「みんなぁ! 俺たちは、何をやっているんだ! 俺たちは、何のために武装してるんだ! 家族のために、郷土の仲間のために、この国の同胞のために戦っているんではなかったのかぁ? 俺たちは、人民解放軍だ。いったい誰を!何から開放しようとしているんだ? 俺たちは、何に対して戦わなければならないんだ? 今、我々の目の前でデモってる人々は、俺たちが戦わなければならない相手なのかい? 我々の戦車による砲撃で、命を奪わなければならない人たちなのか? この戦車のキャタピラーの下に、肉片とするべき人たちなのか?
 違うだろう! 間違っているだろう! おかしいだろう! 今、俺たちの目の前にいる人たちこそ、俺たちが護らなければならない仲間ではないのか? 俺たちが本当に戦わなければならないのは、俺たちに、俺たちの仲間を殺せと指令を下しているその無慈悲な権力者ではないのか? 真に守るべきものへ銃を向けさせている…、その腐敗した力ではないのか? ひとつになろうとする仲間を仲たがいさせ、分断し、分離させ、分裂させ、意味の無い争乱の中へ導く、その腐った権力のあり方ではないか?
 だから、俺は、あえて、引き金を引いたんだ! 直属の上官に反逆したんだよ! 彼の命を、彼からの指揮命令系統を葬り去ったんだ。
 みんな、自分たちが為さねばならぬことを見誤ってはならない! 自分たちが守るべき正義を見失ってはいけない! 今こそ、いや、今のこの現状にあってこそ、俺たちに指令する命令系統に対して反逆ののろしをあげなければならないんだ!
 間違った指令を下している政府をこそ、転覆させなければならない。そして、それこそが、天の意思でもあるんだよ。
 みんなぁ~、みんな立ち上がろう! 天安門の二の舞など、もうごめんだ。俺たちは間違っていたんだ。間違った歴史を、間違った教育を、間違った忠誠を、今、捨て去り正しくする立場に俺たちは置かれているんだ!
 それを知って欲しい! どうか、気づいて欲しい! 勇気を出して乗り越えてゆくんだ!
 もう一度言う、何が正しいのか、今一度、よくよく考えてくれ。自分は何を守らなければならないのか。何を捨て、何を手にするのか? 今ここで、この場で答を出して欲しい!!」

 彼が、自分の思いのたけを訴えたのは、同胞の戦車部隊の隊員たちに向かってであった。そして、戦車部隊には混沌がおとずれた。
 ある戦車のキューポラが開き、中から若い兵士が顔を出し叫んだ。

「そうだ、僕たちは、家で待ってる家族を守るために武器を取った。それは、ここにいる人たちも同じなんだよ。みんな、僕たちの家族だ! 僕たちは、家族の、仲間の、同胞の命を守るために戦うんだ!」

 次の瞬間、斜め後ろの戦車からの機銃掃射によって、彼の命はついえた。
 ほぼ同時に、その戦車は、真横から戦車砲によって撃ち抜かれ、走行不能となって炎上した。
 中央広場へ向かう各道路を封鎖している戦車隊の中に、炎と幾筋かの煙が上がるのが確認された。散発的に轟音が響き、ビルの谷間にそれが反響する。
 その響きがだんだんとまばらになり、しばしの後、ついに静寂がおとずれた。
 と、ある戦車車両のキューポラが開かれ、一人の人物が、戦車から這い出し砲塔の上に立った。彼は、戦車に装備された拡声器で、この場にかかわるすべての人に届くようにメッセージを発し始めた。

「私は、人民解放軍香港部隊司令長官の譚本宏である。故あって、本作戦に同行していた。この異常事態の中において、私は、本作戦のすべての権限を掌握することに成功した。現時点、現時刻、今この時をもって、香港のすべてが私の指揮下に置かれ、我々の下に掌握されたことを宣言する」

 群衆から、どよめきが起こった。
 それは、何が起きているのか理解できないといった不安の思いに溢れて、この先どうなるのかといった疑念、勝手に物事が進んでいることに対する不安、そして、このまま挽肉のようにミンチにされ圧殺されるのかという恐怖さえ含んで、一種異様な興奮状態となってあたり一面に満ち満ちていた。

 司令官は、ふ~と深いため息をついて、おもむろに口を開いた。

「いやいや、諸君、安心したまえ。私は、君たちを守るということを宣言したんだよ。私たちは、あなた方同胞を守る。私たちは、あなた方の生命を守り抜く。そして、あなた方の主張、要求、そして君たちの理想をこそ熱烈に支援すると言っているんだ!」

 周囲は、一瞬、沈黙に包まれた。
 それは、彼が何を言っているのか理解できないという戸惑いでもあった。
 誰かが口火を切った。う、うお!という音にしかならなかった。
 しかし、その音は、波のように激しく周囲に広がっていった。
 うお~、うわぁ~、ぐお~、ぐわぁ~と・・・。
 その歓声が、地響きのように共鳴しつつ、街を揺るがすようビルの谷間に広がっていった。

「私は、この状況を企図して、この作戦に観戦官として秘密裏に参加した。しかし、それは綿密に計画されてのことだったのだ。そもそもの作戦にあっては、かつて私が所属し、その指揮の下にあった北京政府、そしてその最高意思決定者である習近平たちの判断の下にすべてが遂行されるはずだった。我が同胞の砲弾の前に一番最初に消滅した司令官は、習近平の指令に忠実に従い、人民解放軍の指揮命令系統に忠誠を尽くし、思想無き軍属として、ただ己の使命を全うするはずであったのだろう。彼らの指令に従うならば、あなた方は彼の指揮する戦車に踏み潰され、反抗する生命はすべて粛清されるはずだった・・・。しかし、それは、この国の未来にとって真に望むべきことなのか? 今の秩序を維持することが、真に私たちを幸福に導くのか? 否、違う! 私はそのように考えたのである。彼らに従うならば、自由と民主主義の未来は滅ぼされ、再び暗黒の政治がこの国を支配することになるだろう。私は、その未来を断固拒否することを決意したのだ! そのくびきを、私は新しい同志たちと共に粉砕することを決意したのである!」

 轟音が鳴り響いた。それは、砲撃ではなかった。まぎれもなく人の声であったが、それは戦車砲の衝撃をも吹き飛ばすごとき人間の発する魂の咆哮だった。
 しばらく息をついて、人々の気持ちが落ち着くのを待って、譚は言葉を続けていった。

「そもそも軍属は、思想など持ってはならない、いや持つべきでは無いという意見がある。軍隊は厳格なる指揮命令系統に基づいて、粛々と任務を全うすることこそが求められ、そこに思想性などという不純物を混じり込ませ、指揮命令を混乱、あるいはそれを遅延させることこそが悪であり、厳重に処断されるべき重罪と考えられていた。しかし、軍人とてひとりの人間である。命あり、心をもった人間なのだ。信じる価値観があり、徳を重んじ、より尊敬される人間にならんと努力する一個の人間であることには変わりはないのだ。そして、部隊を率い、数多くの部下の命をあずかる指揮官であればあるほど、その思いは強くなると言わざるを得ないのである!」

 歓声は一瞬にして静まり、皆が彼の話に聞き入る。

「軍人にも心は存在する。当然である。今受けている指令が、我らが今遂行せんとする命令が、神に誓って正しいものであるか? 天意に則って正当なものなのか? それを判断することは、我々に与えられた権利と信ずるものである。そして、その結果、我らに下されたその命令が、天に誓って間違っていると判断されたのであれば、我々に与えられた選択はたった一つ・・・。それは・・・、そう、それは、反旗をひるがえせと! 天に代わっ逆賊を撃てと! たとえそれが王であったとしても、ひるむことなく粉砕せよと! それが、我々に与えられた最後のミッションなのである」

 周囲から、どっと歓声が上がった。拍手も聞こえる。皆が、彼の宣言に感動していた。
 心が震えた。彼の真摯さに、彼の純粋さに、そして彼の真剣さに・・・。
 同じ人間として心が揺り動かされたのである。

「現政府、共産党の独裁は、天意に反するものである。愛の神でもあられる天帝は、私に正義をなせと命じられたのだ。そして、私と心を同じくする仲間が、今回の決起に参集してくれたのだ。我らの決起に関する情報が事前にリークする可能性は充分にあった。しかし、そのリスクを受け入れない限り、同志を募ることなど不可能だ。しかし、それが上層部に漏れることは一切なかったのである。どうしてだと思うかね? そうだよ、それほどまでに、今の政治が腐りきっていたということなのだよ。私たちも声をかけるべき人間は心得ている。しかし、声をかけた人間は、すべて我々の志に共感し、事を為す道を選んでくれたのだ。こうして国家の汚れを浄化することが、我らの新しい任務となったのだよ」

 彼は、少し間をおいて、周囲の反応を感じ取ろうとしていた。
 皆が何を感じたのか? 何を思ったのか? それを受け止めようとしたのである。
 自分の言葉が、周囲の人の心に深くうがち入っている・・・。それを確信し、彼は、最後に言わなければならないこと告げるべきだと決した。
 彼は、それを述べ始めた。

「この場に集いたる皆よ、よく聞くのだ! 我らがこの新しい部隊は、今より、あなた方の盾となり、矛となる。そして、この香港都市は、一時的にではあるが独立国として、武装した自治都市として、共産党中国の政府から離脱することを宣言する!」

 彼がそういうのと同時に、今までデモ隊を攻囲するように都市の中心に向いていた戦車が、その方向を反転させ、砲台を中空へすえ中国全土に向かって身構えたのである。
 それはまるで、デモ隊として参集した人々とその都市全体を外敵から守らんとするようにである。その姿は、新しい時代の到来を指し示すためにはこの上ない絵柄となって人々の目に飛び込み、すべての人の心の中に強烈に焼きつけられたのであった。
 彼は、その思いが人々の心に染み入ってゆくのを待つために、しばし沈黙の時を取った。
 そして、再び語り始めた。

「しかし、これだけは確認しておきたい。私たちの理想は、この香港が独立国として分離独立し、台湾の如き国家として自立してゆくことを目指すものではないということだ。どうか、我らの歴史を振り返ってほしい。かつて、この中国を支配したのは、幾多の争いを制して勝者となった王朝だったと思う。あるいは、いくつかの強国が相争い、戦乱と覇権争いの中に生まれたひと時の均衡の中に、分割統治として存在した。今の共産党中国でさえ、清王朝を追い払い、国民党政府との抗争を競り勝った共産党が覇権をとって誕生した国ではないか!
 蒋介石を台湾に押し込め、財閥である華僑たちをアジア各国へ追放し、強大なる軍事力によって成立した農民国家ということだろう。しかし、それは、力による闘争、武力による戦い、権謀術数の果てにある勝利の結果として得られた覇権であり、最高の理想というべきものではないのである!
 我々は、新たな覇権国家を目指すものではない。また、小国乱立状態での分割統治、分裂国家として均衡状態を目指しているわけでもないのだ。
 私は、この中国の家族や同志を心から愛すると共に、この中華文明としての中国を、多様なる民族が、数千年の歴史を刻んで創りあげてきたこの大陸文化を、心から愛しているのである。それゆえに我が理想は、香港は香港としての独自の歴史と文化を保ったまま新たなる自由都市として、新生した中国の一部として繁栄を継続してゆく未来なのである。
 そして、それは、かつて清であった地域が、その歴史と民俗の理想に基づいてひとつの国として共に繁栄を見出してゆけるがごとく、かつて魏であった地域が、あるいは呉であった地域が、蜀であった地域が、その独自性、独自文化に基づいて繁栄しつつ、大中華としてのアイデンティティの下に統合国家を形成してゆく道なのである。私は、それこそが求めるべき新しき理想だと思うのである。そして、それに加わるべく、トルキスタンが、チベットが、そしてかつて元であった蒙古が、こぞって参加を希望してくるような素晴らしい合衆国・諸国連合国家をこそ形成したいと思うのである。
 繰り返すが、私は、香港を単なる独立国家として成立させるべく決起したのではない。その理想はもっと大きく、遥かなるものである。私が目指しているのは、新たなる中華人民国家である。
 民族が民族として独立自治しながらも、大中華合衆国として、アジアの大国としての道を歩む未来をこそつくり出したいと思うのである。
 武力による制圧と支配などではなく、徳による統治、議会による民主的自治、そして自由と夢の実現を求めて人々が中華連合国家への参入が心から望む世界をこそ目指したいと思うのである。
 我々の決起は、その遠大なる理想に向けた第一歩なのである。その目的達成の道のりにおいて、おそらくは数多くの同志が、数多くの仲間が、そしてこの私さえも命を失うことになるやも知れぬ。しかし、それは本望である。それをこそ、私は望むものである。心からな!
 どうだ、我らと共に、新たな世界への第一歩を踏み出そうではないか! 共にゆかん、自由の世界へ! 万民でつくりあげる大繁栄の世界へ!
 そして、万民が、万民の理想を求めつつ共生できる新たな理想国家建設への大望に、どうだ、皆で踏み出してゆこうではないかぁ!!」

 一帯は興奮のるつぼと化した。
 絶望の淵にあったすべての人に、まったく思いもよらない未来が提示されたのである。
 香港が、人民解放軍99式戦車部隊に守られた武装都市国家として、この瞬間に成立したのである。
 それは、習近平が本気を出して進軍してくるならばひとたまりもなく、あるいは、一発のミサイル攻撃であってさえ一瞬にして瓦解するに違いない貧弱な反乱であった。それにもかかわらず、彼らには、無限の力をもった神の砦のごとく思えたのである。

 そう、彼らにはそう思えたのである・・・。
 希望の光、革命のシンボル、そして、天使の砦・・・。

 すべての人々と天命をも背負い、彼らは勇敢に踏み出していったのである。
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青の錬金術師

Author:青の錬金術師
ご訪問くださり、まことにありがとうございます。
このブログでは、幸福の科学の信者として、エル・カンターレ文明建設に資するべく、様々な新しい視点や発見などを提供してゆきたいと考えています。
私といたしましては、科学と宗教を融合してゆくユニークなサイトにしたいと志しています。

御愛好のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
1962年生まれの薬剤師です。

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